東京高等裁判所 昭和31年(う)2443号 判決
被告人 山本善太郎
〔抄 録〕
第二点について。
所論に基いて記録を査閲するに、本件の起訴当初の訴因たる公訴事実は、被告人は都民金融株式会社から同会社の橋本幸一に対する貸金取立を委任されるや、昭和二九年八月上旬頃その取立に藉口して同人方において同所に在つた同人所有のミシン一台を同人より喝取したものなりというのであるのに、その後原審第一一回公判期日に至り検察官より予備的訴因として、被告人は右債権取立の委任を受けるや昭和二九年八月上旬頃債務者橋本幸一より同債務の代物弁済として同人所有のミシン一台の交付を受け之を他に売却して得た代金一三、〇〇〇円を右債権者都民金融株式会社のため保管中その頃東京都内において擅に同金員を着服横領したものなりとの公訴事実の追加を請求したところ、原審は同請求を適法と認めて之を許可した上原判決において右予備的訴因たる金員横領の犯罪事実の成立を認め、他方主たる訴因たるミシン恐喝の事実は之を認めるべき証拠がない旨判示したことが認められる。
然し、右主訴因たる恐喝は、被告人より橋本幸一に対する関係において、脅迫畏怖させてミシンの交付をなさしめたというのであるに反し、右予備的訴因の横領は、被告人と都民金融株式会社との関係において、被告人が同会社のために保管中の現金を擅に着服したというのであつて、両者は、犯罪の被害者、目的物、方法等において全く異なるのみならず、犯行の日時や場所等においても相当差異がある。而して斯ように犯罪に関する最も重要なる諸事実において双方共通を缺く場合には、たといその主訴因と予備的訴因とが孰れも本来同一の縁由より発生した犯行を挙示しているときでも、公訴事実としての同一性を認め難いこと所論のとおりである。然るに、原判決においては、右両訴因につき公訴事実の同一性を認め、予備的訴因の追加を許した上その予備的訴因による被告人の横領行為の成立を認めたのは、訴訟手続上違法の措置であり且つ之によつて判決に影響を及ぼすこと明らかである。従つて原判決は此の点において到底破棄を免れない。論旨は理由がある。
(久礼田 武田 石井文)